<シベリアのベレスタ>

ベレスタは、ロシアの伝統工芸、
白樺樹皮で作られた様々な実用雑貨です。
±50度の厳しい気候下で育つ白樺の樹皮は、
水や熱を通さずに木質を守る強さがあり、
皮革のように柔軟で、ビロードのようになめらか。
紙のように折ったり曲げたりでき、
皮製品のように模様を刻むこともできます。
ロシア工芸なのに和の生活に馴染む
ナチュラル・ハンドメイド。
バーチアロマの香りや、焼き菓子のような手づくり感。
見て触れて使って、ホッコリいやされ、
日本でも愛好者が増えています。

ベレスタの製法・職人技

伝統的なベレスタ制作の技法は、工房職人や職人徒弟によって引き継がれるとともに、マスタークラスなどの体験学習の場を通じて子供たちや若い人たちにも伝えられています。 長年にわたり受け継がれてきた技術やデザインをベースとしながら、今日の生活に合った新しいデザイン、独創的な表現、革新的な技法が多くの職人によって生み出されています。

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型押し・テスニー

白樺樹皮に模様や絵柄を刻み付けるために、絵柄を彫刻した、木製や金属製、骨製の「たがめ(凸凹をつける工具)」や「スタンプ」が使われます。

白樺樹皮を2~4層重ねて筒状にし、底を張り付けて容器を作ります。ふたと側面には、様々な模様や絵柄が刻印されます。耐久性を高める目的で、伝統的手法で、焦げ色に見えるような着色がほどこされます。

絵柄には、職人が一番好きなものを描くのがよいとされ、シベリアの自然、動物、草花、鳥、動物、農村の生活などが描かれています。複数のスタンプを使って非常に複雑な模様を描くこともあります。

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かがり縫い

シベリア地方の白樺樹皮は動物の皮革のように強靭で柔軟なので、ひものようにして編みこむことができます。接着剤を使わずに、樹皮ひもによるかがり縫いによって素材を連結する伝統手法が受け継がれています。

かがり縫いには、木の根、白樺樹皮、柳の枝、なわ、ワイヤーなどが使われます。ふたの開閉に弾力を与えるため、ふたと接触する開口部に縁かがりがされたり、飾りとして側面や容器底部にもかがり紐の装飾が付けられることもあります。

紐を通す穴を一つ一つ開けて、手作業でひもを通してきっちり縫いこみますので、製作は大変な重労働です。

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カッティング

職人はたった一本のナイフから様々な形状のカッティング装飾を作り上げます。パターン化された文様も使われ、透かし彫りの場合はその下の模様も楽しむことができます。

多重柄

a 白樺樹皮を細かくカットし重層的に貼り付け、更に細かい装飾を施した、「神の手職人」の作品。色調の異なる樹皮装飾が、少なくても4層、最大で10層も重なっています。はっと目を引く美しい完成度の高い作品が作られています。

装飾模様

原色や伝統手法で着色された、色合いの異なる樹皮を2~3枚重ねて、それぞれに繊細な彫り模様がつけられ、立体感のある装飾が作られます。

透かし彫り

厚みがあり傷の無い最高品質の白樺樹皮を惜しげもなくカットして、涼しげな透かし彫りのプレートが作られています。職人が彫刻刀で一刀一刀カットするものでは、少しのミスも許されず、それゆえ無傷の完成品ができると「神の手職人」と賞賛されます。

絵画・ラッカー塗り

ベレスタの筒や小物入れには、よく絵が描かれます。筒全体に色を塗って、そのうえに更に絵を描く場合もあります。絵を描く前に糊や、下塗チョークとにかわを混ぜた塗料で下塗することもあります。テンペラ画絵具、油絵具を使って描く場合もあります。

白樺の皮は薄いため、通常、ベレスタの容器には、白樺樹皮を2~4枚重ねてプレス(圧縮)した材料が使われます。一方、皮一枚に天然の塗料(樹脂や蜜蝋、松脂で作られた天然のラッカー)を塗って、強度と耐久性を高める技術もあります。絵を描いた後でラッカーを上塗りする場合もあります。完成品にアマニ油またはひまわり油を塗ることもあり、これにより製品に輝きがでます。

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キャニスター・筒

筒の制作はベレスタ手工芸の中で最も複雑なものの一つです。筒側面に白樺樹皮が使われ、底とふたはマツやシベリア杉の木質が使われます。

折り返しタイプの筒は、長めの内筒と外筒を重ね、上下に突き出た内筒の端を蒸気で蒸してやわらくし、めくって、外筒の上にかぶせ、柳の細枝でしっかり結んで固定します。

ふたの開閉に弾力を与えるため、上部に縁かがりがされたり、飾りとして底部にも縁かがりがされたりします。

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手編み細工

白樺樹皮をカットして作ったひも状の樹皮を使い、縦糸と横糸を編みこんで作る方法は、古代からベレスタの製法として使われています。

ロシアでは古代から、防水、保温保冷、天然防腐効果のあるベレスタの靴(長靴、スリッパ)、きのこやベリーを集めるショルダーバッグやバスケット、食器カゴ、子供のおもちゃなど様々な生活用品が作られ使われてきました。素朴な手編みカゴは和風の生活にもとてもよく合います。

「垂直織り」と「斜め織り」

手編み作品には、樹皮ひもを斜めに交差させる「斜め編み」と、垂直に交差させる「垂直編み」があります。 「垂直編み」は、マット、ブックカバー、箱など、平面(角形)の作品を作る場合に適しています。 「斜め編み」はカゴ、花瓶、小物入れ、ベルトなどで、「斜め織」の方が制作しやすく、かつ耐久性があります。

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着色料、ラッカー、接着剤

ベレスタ制作に使われるラッカー

ベレスタ絵柄の茶色い色は、顔料アンバー(umber、水酸化鉄を主成分とし、二酸化マンガン(MnO2)を含む土に由来する褐色の無機顔料)に由来します。天然土を粉砕、水洗、選別した「土性顔料」の一種で、ベレスタ制作に伝統的に使われているものです。

絵の鋳型(いがた)を白樺樹皮に押し付けて凹凸をつけた後、顔料アンバーの染色液を塗り、乾燥させた後、乾布で磨くと、凸部分の染料が取れて白っぽく、凹部分に染料が残って茶色になります。

樹皮の耐久性を高めるとともに、「焦げ色」に見えて温かい外観になります。

ベレスタ制作に使われるラッカー

白樺の皮は薄いため、通常、ベレスタの容器には、白樺樹皮を2~4枚重ねてプレス(圧縮)した材料が使われます。

一方、皮一枚にラッカーを塗って、強度と耐久性を高める技術もあります。ラッカーには、Danish Oil(*1))などが使われます。

完成品にアマニ油またはひまわり油を塗ることもあり、これにより製品に輝きがでます。

ベレスタ制作に使われる接着剤

1.ドイツのメーカー「ヘンケル」の工業用接着剤。成分はクロロプレンゴム、ロジンエーテル。
2.ポリビニルアルコール系接着剤(PVA、ポバール)
3.PVB樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)

白樺樹皮ひもで「縫われて」いる作品には、通常、接着剤は使われていません。数十年、数百年というスパンで見た場合、天然であれ合成であれ、接着材はいずれ劣化し作品をダメにします。そのため、伝統的に、接着剤を使わずに、白樺の樹皮紐で連結部を編み込む、という手法が使われてきました。これには大変な時間と労力を要し、作品の価格は高くなります。

一方、近年は、接着剤を使って簡易にお土産品を作るようになりました。型押しやカッティングの小物入れには接着剤が使われています。

ベレスタの材料

白樺の皮

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ベレスタはロシア語で「白樺の表皮」を意味します。

白樺の皮は層状になっていて、表皮は純白または黄色がかった白い(黄カバ)薄皮です。白樺樹皮の内側の層は、木の幹に向かって黄色から茶色までの陰影があります。天然で様々な色彩をもち、茶色から金色、チョコレート色、ベージュ色(白クリーム色)など他の樹木に見られない色もあります。白樺の皮は、木でも紙でもありませんが、それをシート状にして、皮革のように、紙のように、折り曲げたり、折ったりできます。

白樺樹皮は多層ですが、すべての層が使えるわけではなく、作品に必要な層を選別します。小さな作品には薄い層、大きく頑丈な作品にはより厚い層が使われます。

樹皮には白樺特有の木目があり、若木の木目は短く細く、成熟した木の木目は長く太いのが特徴です。

成熟した木の樹皮には瘤(こぶ)やシミによる模様があり、その野性味も魅力の一つと考えられています。

シベリア地方の白樺

世界中の寒冷地(北欧やカナダなど)で、白樺樹皮の手編みカゴが作られていますが、シベリア地方の白樺は特殊です。

ロシア、シベリア地方の白樺は、プラスマイナス50度の厳しい環境で木の幹を守るため、樹皮が緻密で油分が多く、弾力性に富み、冷気を遮断し、湿気や空気を通しません。

シベリア地方の白樺の皮は、ガサガサした木の皮というよりは、ベルベット(*)や金色に着色されたスエード皮(*)に似ています。

繊細な絵柄を型押ししたり、細かくカットしたり、細いひもにして縁かがりしたり、異なる色合いを組み合わせてバラエティに富んだ作品を作ったりすることができます。

用語*)ベルベット(ビロード):織物の一種。非常に肌触りが良く独特の光沢をもつ。 用語*)スエード:子羊や子牛など小動物の皮革の裏面をサンドペーパー(ヤスリ)を使って毛羽立てたもの。光沢感があり温かみがある。

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森の長老と森の精霊

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ロシアのタイガ(Тайга́:シベリア地方の森林)には、白樺の木が群生しているところがあります。白樺の白さが光を反射するため、密生していても地面まで光が届き、白樺も、他の草木類も盛んに茂っています。そのかわり、群生している場所では、白樺の木一本一本は、それほど太く成長することができません。

シベリアの人々は、深い森の中で、樹齢の高い、太く頑丈で背の高い白樺を見つけたると、そこをランドマークとして小径(みち)をつくり、「森の長老」に敬意を払いながらその道を通りました。森林の中に作られたNovosibirskの学園都市アカデモゴロドクでは、今でもそのような大木が森の町のあちこちで人々を見下ろしています。

長年の風雪に耐えた白樺の木では、傷跡がコブになり、苔などの寄生植物による痛みや染みができ、すべすべの木肌は非常に稀です。

キノコやベリーなど、森の恵みを求めて、人々が森を歩くとき、はっと目を引く、輝くようなの白樺の木に出会うことがあります。それは、コブや傷がほとんどなく、空に向けてすっくと白い肢体を伸ばしている、たぐいまれな白樺なのです。そのような木を「森の精霊」と思う人もいれば、すごい美人(美木)と出会えた、と感動する人もいます。

タイガ(森林)で樹皮を集める

より上質の材料を求める職人は、自ら森林に入り、樹皮を採取します。樹液が循環する春と秋に数日間だけ、樹皮がはがれやすくなる時期があります。その時期は、樹皮に弾力があり、木に損傷を与えることなく、皮を幹から容易に剥ぐことができます。

この時期に採取した樹皮には深い型押しが可能です。立木から樹皮をはがす場合は、木を枯らさないように茶色い薄皮を残します。そうすると約7年ほどで樹皮が再生します。

制作に適した最良のベレスタは、樹齢20~40年もので、木の幹の直径が150~350mm、平滑(なめらか)で、均一で、傷(節、切り傷、裂け目)の無いもの、白樺に特有の水平の線条が入り、丸くないものがいいとされています。最も適しているのは、ほどほどに湿度があり、ほどほどに陰がある場所に生育した白樺です。

ベレスタ制作に使える、節くれの無い美しい白樺は非常に稀で、百本に一本あるかないか。ベレスタ職人は、美しい樹皮材料を求めて、一ヵ月ほどかけて、タイガ(森林)を数百キロも旅します。

これは原則として、森林伐採にあたるので、白樺樹皮を採取する前に、採取する場所を申告し、森林管理機関から公式の許可を得なければなりません。ロシアの白樺材は、自然保護の観点から伐採量が制限され、樹皮の売買にも税金がかけられています。

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材木から

春と秋、建築用の白樺材の伐採の時期にあわせ、材木用に切り倒された白樺から、樹皮が採取されます。なければなりません。ロシアの白樺材は、自然保護の観点から伐採量が制限され、樹皮の売買にも税金がかけられています。

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樹皮の選別

ロ樺樹皮は多層で、すべての層が使えるわけではなく、作品に必要な層を選別します。小さな作品には薄い層、大きく頑丈な作品にはより厚い層が使われます。

テープ(ひも)状の材料を作る場合は、1ヶ月以上保管した樹皮材料も使われます。

長期保管した樹皮を切る場合は、ひまわり油が使われます。樹皮に油をつけ、フランネル(紡毛糸織の柔らかく厚めの布)の布に樹皮はさみこみ、力を入れると層がはがれます。このことから、時々、ベレスタ作品に、フランネルの布の断片(青色やピンク色の染みに見える)がついていることがあります。

樹皮ひもを保存する場合は、巻いて丸い玉にし、ポリエチレンの袋に入れておきます。

油分が抜けるとベレスタはもろく、切れやすくなるので、ポリエチレン袋で保管しない場合は、水に浸けておきます。乾燥した樹皮は、水に浸けて数時間すると弾力が戻り加工しやすくなります。

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樹皮には白樺特有の木目があり、若木の木目は短く細く、成熟した木の木目は長く太いのが特徴です。

成熟した木の樹皮には瘤(こぶ)やシミによる模様があり、その野性味も魅力の一つと考えられています。

ベレスタの特徴

保温保冷(冷めない水筒)

あるシベリアの職人が、酷暑のインドで開かれた展示会にベレスタを出品したときのこと。職人は、朝、ベレスタの水筒に氷水を入れて会場に持参しました。しかし、"インドでベレスタ"は人気がなく、商品は大部分売れ残っていました。

夕方、職人が、ベレスタの水筒の水を飲んでいると、近くにいたインド人が、職人の水筒の水が冷たいことに気づきました。

最新のステンレス製の水筒でさえ酷暑のインドでは冷気を保てないのに、ベレスタの水筒の水は冷たいままだったのです。

その保冷性能が周囲の人々に伝わると、展示会で販売中だったベレスタがあっという間に売り切れた、ということです。

鎮痛鎮静

白樺の精油(バーチ)には、鎮痛鎮静効果があります。バーチの主成分は消炎作用をもつサリチル酸メチルで、湿布などにも使われています。

ロシアでは、白樺が痛みを取り去り、健康をもたらすと考えられており、体調が悪いときや興奮しているときに、森に行って、白樺をじっと眺めたり、腕で抱きしめたりすると、まもなく気分が落ち着くといわれています。

白樺樹皮で作られたベレスタには皮膚を刺激する物質が含まれず、静電気も引き起こさないので、肌に触れるアクセサリーやヘアアクセサリーにも適しています。

フィトンチット

白樺樹皮から発散される、抗菌、抗ウィルス、抗細菌作用をもつ極微量のフィトンチッド(*)が、ベレスタが存在する場の空気を浄化し、私たちの心身にも良い影響を及ぼしてくれます。

【用語解説】フィトンチッド(phytoncide)とは、微生物の活動を抑制する作用をもつ、樹木などが発散する化学物質。植物が傷つけられた際に放出し、殺菌力を持つ揮発性物質のことを指す。ウィキペディアより

ロシアではソ連時代、白樺アロマの強い抗菌効果により、白樺の森は手術室よりも数倍清浄である、とも言われていました。

日本にも白樺にまつわるエピソードがあります。太平洋戦争中、共同生活を送る軍人の宿舎ではよく「水虫」が流行しました。ある宿舎で、一人だけ水虫にならない兵士がいました。実は彼はアイヌ民族出身で、宿舎では「白樺のスリッパ」をはいていたのです。白樺スリッパの殺菌利器のおかげで水虫にならなかった、という話です。

天然防腐

白樺樹皮は腐りにくく、考古学的に発掘された数百年前の白樺の手紙(*2)が、腐敗せずに原形をとどめていることから、その防腐効果が実証されています。

樹皮が腐敗しない一方、木の幹(木質部)は油分が多く腐敗もするため、白樺の森には、幹が空洞となりながらもすっくと立ち続ける白樺の木があり、人が知らずに寄りかかると木もろとも倒れてしまい、大笑いすることもあるそうです。

ベレスタは水を通さないので、水洗いができます。ロシアでは、ベレスタの筒の内側に蜜蝋をぬって防水性を高め、ミルクやハチミツなど液体の保存にも利用されています。ベレスタにミルクを入れると2週間は腐敗しないし、魚、肉、きのこ等も長期間鮮度が保たれます。

穀物や小麦粉をベレスタの筒や容器に入れると虫がつかず、また食品の余分な湿気を除去します。ベレスタの容器でパンを保存すると通常よりもずっと長く品質を保持できます。

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